ライブというものは
始まる前から忙しいものだと知った。
まず出演者と音響と照明とスタッフ用に
おつな寿司を買いに行ったら
青山店が休みだった。
あわてて六本木の本店まで走った。
彼らは昼食以降、何も食べられない。
そのへんのパンでは間に合わない。
パンやクッキーは喉の水分を奪う。
ライブハウス近くの自販機で水を買う。
音響と照明の人にはお茶も買う。
ナレーターに水を持って舞台へ出るように言う。
客が入りはじめたら場内の気温と湿度が変化した。
きっと水が足りなくなる。あわてて買いに走る。
チケットを忘れた客が来た。
チケットの予約をしていない客が来た。
出演者に花を渡したい客がいる。
ジュースとお菓子の差し入れがきた。
酒の差し入れがきた。
巨大なスイカの差し入れがきた。
シャンパンとチョコレートの差し入れがきた。
そのたびに階段を駆け上がり駆け下りる。
受付で客の整理をし、階段を駆け下りたかと思うと
また駆け上がり、楽屋へ走ったり走り戻ったりする。
受付は差し入れを預からないので楽屋へ入れておくしかない。
客を席に案内する。
自由席だけれど、なるたけなら同じ種族のいる席に
案内したい。
この客は鍼灸師だが、昔はスイマーズというバンドのボーカルだった。
この弁護士はいまや弁護士協会の副会長などもつとめる
偉そうな人物ではあるが、
学生時代はCMの原稿書きのバイトをしていて広告屋に詳しい。
この人は大人気の猫ブログをやっている。
このスタジオの営業の人はそのブログのファンだ。
このように分子と分子を結合させていった。
ライブ後半の対談には私も出ろという。
私が舞台上にいたら、誰が役者を楽屋に呼びに行くんだ?
バンドーのマネージャーに頼んだ。
対談が始まって5分たったら呼びに行ってくれ。
その対談のころになって
やっと酒を飲む余裕ができた。
ライブ終了後の二次会に行き、三次会に行き
店を出たら朝になっていた。
帰って寝て、目が覚めてもう一度寝て
昼頃に起きたら、24時間以上何も食べていないことを思い出した。
ライブの中身のことは次第に思い出すだろう。
面白かったというメールを何通もいただいている。(さ)