百歳猫の「ちいちゃん」は築地の旅館で生まれた。
姉妹が多かったので鬱陶しくなって家出をし
10歳を過ぎるまで野良として生きた。
肉球がすり減るまで毎日歩き回って餌をさがした。
そんなとき築地の割烹「えん弥」の女将に出会った。
毎晩、店が終る頃にやってきて魚をもらうようになった。
女将はその頃、マンション住まいで別の猫を飼っていた。
そのノアちゃんという猫が癌で亡くなって
「ちいちゃん」は女将と契約を結びえん弥の猫になった。
女将が寝ているときは起こさないこと。
食べ物商売なので
外から帰ったときはカラダを濡れタオルで拭かせること。
ネズミを中に入れないこと。
やがて女将は店の2階に引っ越して来て
「ちいちゃん」と暮らすようになった。
「ちいちゃん」は昔に鳩を取ろうとして犬歯を折ってからは
もうネズミを殺せない。
でも百歳を過ぎてもネズミは店に一歩も入れない。
外から帰るとカラダを拭かないと寝ないほど潔癖性になった。
寝ている女将を起こすこともない。
ただ、契約外のことはする。
つまり、女将さんが「ちいちゃん」にちゃんと言い聞かせないで
(それはつまり急いでいるときなのだが)
出かけてしまうと、猫トイレの砂をひっくり返して報復をする。
それから内緒だけど
「ちいちゃん」と小松巨匠は愛し合っている。(さ)