朝、たいへん忙しくしているとドアのチャイムが鳴った。
「ピンポーン」
「死ね」
ひと言ののしってみたが、当然ながら相手には聞こえず
当方の殺気も伝わらない。
「ピンポーン」
しぶしぶインタホンの受話器をはずした。
「○×△ですがご挨拶に参りました。玄関先をちょっとお借りします」
○×△がわからない。聞き取れなかった、というよりも
耳慣れない言葉に違いなかった。
「なんでしょうか」
とりあえず問い返してみた。すると敵は言った。
「近ごろ金属が値上がりしていますよね」
「はー、そうなんですか」
「そこで金属の査定と買い取りをですね」
「あー、うちは金属ないです」
「いやいや、イミテーションでもいいんですよ」
「イミテーションって何のイミテーションですか」
「オモチャとかですね」
「うち子供いないんでオモチャないです」
「そういうオモチャじゃなくてですね」
「猫のオモチャなら」
「いや、そういうのではなく棚に飾ってあるものとか」
「棚...棚もないなぁ、そういえば」
「とにかく金色か銀色のもの」
「う〜〜、金色はないですが銀色なら鍋と包丁、瓶の蓋」
どうも話がかみ合わないまま敵は気弱になり、去っていったが
金属、おもちゃ、イミテーション、棚の飾りもの、金銀。
この条件を満たすものが何だかよくわからない。
それにしてもこの家はヒカリモノのない家だとあらためて気づいたぞ。
包丁、鍋、瓶の蓋、薬缶、焼き網、スプーンにフォーク、
針金、ホチキスの針、ガスファンヒーターって金属でしたっけ?
あ、釘もあったね、確か。
おおっ、いちばん巨大な金属が物置の扉で確かアルミだ(飾り物ではないが)
はずして持っていくなよ、○×△くん(さ)