横手は秋田県の横手市で、
蛇行する横手川の両岸に市街地が形成されている、という説明よりも
私が子供の頃は「かまくらの町」として有名だったし、
私の田舎はあまり雪の降らない地域だったので
雪洞を作ってそこに入って灯りをともして遊ぶということが
すでにして憧れだった。
横手は雪国の代表選手のように思っていた。
さて、そんな雪国横手へは真夏に行った。
単に北上線に乗りたいばかりに、山形から奥羽本線に乗って
文字通りトコトコと行ったのだ。
もとよりたいして期待していなかったが、本当に駅前には何もなかった。
駅から一歩踏み出しても何もなかった。
道路は広かった。
そんな記憶しかなくて、駅前に一軒だけあった食堂でラーメンを食べ、
それでも時間があったのでコーヒーを頼み、
隣の席でイカサス(イカ刺し)を注文して酒を飲んでいた老カップルの会話を
盗み聞きしながら時間をつぶした。
2011年のことだったので
放射能とか野菜が二束三文というような言葉が耳に飛び込んできたが、
やがて「私たちは幸せだなあ」という言葉が聞こえ、
妙に安心して、幸せだなあのおすそ分けをもらった気分になって
北上線に乗った。
そして数日前のことだった。
仕事仲間のじいちゃんが亡くなって、その人はお弔いで秋田に帰るという。
秋田のどこなのか尋ねることもしないで
メールのやり取りをしていたら
「明日、奥羽本線で横手へ」と書いてあった。
ええっ、横手ですって!!!
そうか、横手だったのか。
冬の横手はいいだろうな。雪があってキレイだろうな。
やっぱ雪国は冬に行くのがいいと思うし、
雪国から旅立つのだから、やっぱり冬がいいと思うな。
ピリッと冷たい空気のなかで
みんなに見送られて逝くのは気持ちよさそうだ。
横手と聞いたとたん、見ず知らずのじいちゃんがなんだか身近に思え、
じいちゃんの旅を祈る気持ちになった。
じいちゃん、どうかいい旅をね (さ)