胡留さんの要求はこういうことです。
「あたたかいストーブのそばで、切り立てのナマリブシの
脂ののったカマに近いところを食べたい」
要求の前半をかなえるのは容易ですが、後半はたいへんです。
なにしろカマに近い胡留さんお気に入りの部分は
ナマリブシ1本についてひと切れしかないからです。
胡留さんはことに尻尾に近い部分をなかなか召し上がってくれません。
これでいいのか...
いくら甘い飼い主でもさすがに考えます。
食べられない猫もいるというのに
駅前のスーパーで売っている真空パックのナマリブシは
ほとんど胡留さんが消費しているといってもいいくらいです。
こんなことでいいのか....
そこで、ナマリブシの上半分と下半分を混ぜてあげることにしました。
「.....??」
ちょっと首をかしげますが、食べます。
ときどき食べるのをやめて、はたと考え込みますが、食べます。
よしよし、これだね、胡留さんや。
胡留さんにはもうひとつ要求があります。
「背中もいいけど、顔の左右と顎の下をいつも撫でてもらいたいの」
そこで自分からスリスリしてきます。
飼い主の目の前で座ったかと思うとコロンとひっくり返ります。
これはかわいいポーズというより、ある意味命令です。
「撫でろ」と言っているわけです。
猫とは長い付き合いです。
さすがにわかってきたことがあります。
どんな境遇から来た猫でも、「飼ってもらっている」とは考えない。
「いてやっている」と考えているのです。
うちへ来る前に虐待を受けていたのではないかと思われた故ハエタローもそうでした。
胡留さんとの違いは、胡留さんは態度だけは(いまのところ)控えめ、
ハエタローは女王さまだったという違いです。
故賢猫の場合はチビから育てたのですが、
にもかかわらず、私の保護者のつもりになっていました。
台所で包丁を落とすと走って来て「わああおおお」と叱ります。
私が寝込んでいるときは部屋のすぐ外でずっと見張り番をしていました。
猫は面白い生きものですね(さ)