中央区新富町は町ではなく村といってもいいくらいなところだが、
お隣は銀座と築地だから恐れ入る。
言ってみれば、銀座と築地の端っこの落とし穴みたいなもんだ。
新富町はたぶん訪れたあなたにタイムスリップした感覚を覚えさせる。
ここでロマンを感じた人は間違っている。
銀座築地から「昭和」を掃き出したときに
回収しきれなかった小さなワタボコリが新富町だ。
ロマンというものはカケラもない。
以前は飯屋にも不自由していたが、近ごろは若干増えた。
しかし「若干」という程度なので、
相変わらずタイヤキ屋が売るおでんとオニギリが繁盛している。
新しい店はたいがい根付かずに消えるが
生き残った店は、なんとはなしに新富新富してくるから不思議だ。
だいたいここはもともと武家地だったのだが、
築地の外国人居留地の客を当てにした遊郭がで出来て、
しかし客が入らなかったのでさびれて取り払われ、
そのあとが新富町になったのだ。
古くは新富座という劇場が新富町にあって、一度焼けたが立ち直り、
明治のころは歌舞伎座とともに歌舞伎の黄金時代を築いたのだが
大正12年の関東大震災で焼けてしまって再建はされなかった。
新しい店が根付かないというのはその当時からのジンクスかもしれない。
さて、その新富町に数年前から集合住宅が建ちはじめ、どうも住人が増えている。
銀座に近くて便利という売り言葉にだまされたに違いないが、
町内に肉屋といえば鶏肉屋が一軒、魚屋といえばクルマで売りに来る流しの魚屋、
八百屋といえば以前できたが今はどうも見当たらない...という町なのだ。
築地の市場はひとっ走りだが、遅くとも14時には閉まってしまうので
仕事帰りの買い物はできないし
昼間お家にいる人だって14時に閉まる店は不便だ。
銀座のデパ地下は築地の市場より近いが日常の買い物はいかがなものか。
コンビニはあるが、いままでにいくつも出来ては消滅しているので
現在のコンビニもいつまで続くかわからないし
第一、家で夕食をつくろつとするとコンビニだけでは無理だ。
そんな新富町に、ついにスーパーが登場したのだ。
それは本当に降ってきたとしか思えなかった。
コンビニの延長に毛が生えたようなものだが、
それでも野菜があり肉があり、魚も多少はパックで売っている。
なによりもうちの近所のスーパーと違うところは
極少人数用のパックで野菜を売っていることだ。
なるほど、集合住宅は少人数用が多いのかと推測できる。
いや、実はこのスーパー、住所的には入船1丁目だが
新富町から道路渡ってすぐだし、新富町駅から377メートルだし
新富町のスーパーとして共有させてもらってもいいのではないかと思う。
おまけに、いま思い出したのだが
私の会社は新富町の駅を出て徒歩数秒で
すっかり新富町の住人気分になっていたが、住所は実は入船だ。
そういえば入船方面にも肉屋や魚屋はなかったと思う。
豆腐屋はあったが、どうも最近見つからない。
もしかしたらこのスーパーは、新富と入船と、
それからもしかしたら湊あたりの住人の人気店になっているかもしれない(さ)