思わぬ不幸に見舞われがちな体質である。
朝起きたら電気釜の蓋がパカッと開いていたことがある。
飯を炊く機能に異常はないが、蓋を閉じる機能が壊れたのだ。
朝起きたら自転車が盗まれていたこともある。
自転車は数ヶ月後に戻ってきたが
そのときすでにNEW自転車を買ってしまっており、置き場所に困った。
携帯HDが消えたこともある。
本体は消えていないのに、パソコンに繋いでもアイコンが表示されないのは
どういうことだ。
まあ、いろいろと思わぬことで苦労はしているので
たいがいのことには驚かないし
私を見舞う思わぬ不幸は、他人にとって笑い話の場合が多い。
さて、赤坂のスタジオに近いラーメン屋である。
夜遅い改訂作業があったので、朝がたまでやっているその店に行った。
カウンターに座っていたら、思わぬ不幸が飛んできた。
「あちっ」
それは中華鍋から飛び出した熱々の油だった。
カウンターと厨房の間には透明なプラスティックの仕切りがあるのだが
仕切りは低く、油は勢いよく高く飛んだらしいのだ。
まず頭へ、そして左手の甲にも二カ所、第一陣が着地した。
「あちっ!」
左手が熱かったので左を見たら、第二陣が目の前をすり抜けるのがわかった。
第二陣は私と隣の客の隙間を通過して床に落下したようだった。
隣の客は頭を下げて食べているから油に気付かないし、悲劇を回避している。
やっぱり頭を低くするのは大事なのだね。
ふと見ると上着の胸と袖に何カ所も油のシミができていた。
カウンターに置いた手帳も細かい飛沫を吸い込んでいる。
参ったね、こりゃ。おばちゃん、オシボリちょうだい。
おばちゃんは日本人ではないのでコミュニケーションがうまくいかない。
しかたないのでコップの水でハンカチを濡らして、
頭や手やノートはどうでもいいが、ともかく上着の油を拭いた。
油のシミは落ちないが、一応努力をしてみたかった。
おばちゃんがやっと気付いて、カウンターの中で中華鍋を振っているおじさんに
「アブラー、アブラー」と言っている。
そんな暇があったらオシボリが欲しいぞ。
おばちゃんは、というか、この店はオシボリがないようだ。
中華鍋のおじさんとその助手らしき兄ちゃんふたりが
コップの水で上着を拭く私を凝視している。
だから〜、みなさん〜〜、布巾でもいいから貸してください〜。
おかわりの「飲み水」を頼んだら、
ハンカチを濡らしたコップに水を足そうとした。ちぎゃう〜〜。
こうして、頭と手と上着に熱い油を浴びた私は
夜中に帰宅して、まさかそのまま寝られないので風呂に入って髪を洗って
いまこれを書きながら髪を乾かしているのよ。あ〜、もう眠い(さ)