陶芸のことは何もわかっていないのだが
酒を飲むからには杯を持っているわけなのだ。
そして杯を持っているからにはそれがどの種族に属するのかも
(ものによっては)わかっているわけなのだ。
つまり、箱書きや説明書があればわかるわけなのだ。
このふたつの杯は伊羅保という種族に属する。
鉄分の多い砂混じりの目の荒い土でつくられているので
手触りがざらっとする。それで伊羅保(いらぼ)
何かの説明によると、
手触りがざらざらすることを「いらいらする」というので
伊羅保だというのだが
西の言葉では「触る」ことを「いらう」という。
漢字だと「弄う」と書くようだが
単に「触る」というよりも「もてあそぶ」とか
近ごろよく言うところの「いじる」が近いように思う。
私はこのざらざら感が好きで、右の杯などはガラクタと一緒に作業机に置いて
ときどき弄っている。だから伊羅保(いらぼ)なんだなと
自分勝手に思い込んでいる。
ふたつのうち左はまっとうな伊羅保だが
右はキズだらけで、それは私がつけたキズではなく
売られているときからついていたのだから窯キズだろうけれど
激しい歪みとキズで満身創痍の野良猫のようだったし
毛を逆立てているようにも見えた。
これが猫ならばまず引き取り手はあるまいと思い
思わず「買います」とメールを書いた。
「買います」は「飼います」でもあり
きかん気の猫を一匹飼うような気持ちでそばに置いている。
かなり以前に買ってそれなりに使いこんだ左の伊羅保は
不肖の弟の登場にやや迷惑そうな様子がうかがえるのだが
兄は共箱におさまって食器棚に鎮座しているし
弟はガラクタと共生しているし
実はこうして並ぶことはほとんどないのだから
たまには並んで写真を撮ってもいいじゃないの(さ)