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金曜日の夜だった。 2012年6月1日、TCCの総会&パーティの夜のことだ。 私はほとんど酒を飲まず、ひとつのことをを考えつづけていた。 もらったばかりの、大事に大事にカバンにおさまっているこの絵唐津の陶片に なにを乗せるかということだった。 陶片は仲畑会長からいただいた。 会場に到着したとき、事務局から「仲畑さんがさがしていましたよ」といわれ のこのこ出頭したところ、いきなりいただいてしまったのだった。 しかも陶片としてどこかの窯の遺跡から泥まみれで出土したものではなく 仲畑さんが所持しておいでになった皿が地震で割れたというそのカケラで、 いわゆる伝来品というやつだった。 カケラとはいえ高台が完全に残っている部分、しかも金継ぎが鑑賞できる部分、 カケラとしてはいちばん良い部分をいただいてしまったのだった。 (この恐ろしい金継ぎに関しても言いたいことがあるが他の機会に) 唐津には縁がなかった。そもそも唐津は怖い。 茶道の世界では 一楽二萩三唐津といわれ、 茶を点てたときの味と香りを引き立てる陶器であるらしいのだが 茶道で珍重されるものはだいたいが高い。 値段も高いが格式も高い。 私がつくる菜っ葉の煮浸しなんぞは乗せにくい。 私が日ごろ使う食器棚と唐津の縁は薄かった。 そこに突如として降臨したのがこの陶片だった。 困ったことにこの陶片はキレイだった。 陶器の肌がキレイ。とにかくなめらかでキレイ。 誰かが100万回も撫でまわしたのか? 仲畑さんが撫でたのか? 山形の野村呉服店の婆ちゃんは80歳を超えて頭は少しボケているようだけれども 真っ白でキメが細かくうっとりするような肌の美人で 箱入り娘から箱入り嫁になって、いまでも大事にされていることがうかがえる美しさで ああ、なにもこんなときに山形の婆ちゃんを思い出さなくてもいいだろうに ともかく私は自分で自分をいたましいと思うほどアタマのなかが取り散らかっており、 また、それほどキレイな陶片なのだった。 こっこれは.... 私の素人料理などで手に負えるものではないかも... という考えがパーティのときも二次会も三次会も アタマのなかをぐるぐるしていた。 まず思いついたのはウドだったが、 この色の陶器に白いウドはあまりにそのままで恥ずかしい。 なにかないかと思い悩んでいたときに 三次会の目黒のバーで、私の斜め横に座っていたナベゾーが突然言葉を発した。 「立派なオクラが建っちゃってさあ...」 それは仕事の失敗談で、要は長いことかかって制作したCMがお蔵入りした話だったが オクラという言葉が私の耳にとどろいた。 そうだ、オクラだ。 オクラをたたいて、カツオブシと醤油をまぶして乗せてみよう。 緑と白だ。そこにカツオブシのうす茶が混じる。 こいつはいけるかもしれん。 ありがとう、ナベゾ〜。古い仕事仲間っていいもんだね〜。 で、ためしてみたのが上の写真。 結んだ水菜のお浸しやタタミイワシも乗せてみたが やっぱりオクラがいいような気がする。 こうして少しづつ機嫌を取っていくうちに この陶片も高貴な出自をお忘れになって私の台所に馴染んでいくだろう...か? (さ)
by malt-yu
| 2012-06-03 09:14
| モノ
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Comments(2)
日曜のちょっと涼しい朝に米軍払い下げのPYREXのマグでコーヒーをすすりながら読ませていただきました。いやぁ、楽しかった!小咄的世界につい相づちを打ったり、吹き出したり。
お久しぶりでした。ときどき(RSSで)読ませていただいています。こちら広島では一昨日から「とうかさん」という浴衣祭りが始まり、今日が最終日となりました。広島はこれを機に夏がはじまります。おかげで今日の日曜日は『オクラがたった』ならぬ『茶柱がたった』、そんな一日になりそうです。ありがとうございました。どうかよい日曜日をお過ごしください。お元気で。
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FUKAKEY at 2012-06-04 01:30
全然関係ない会話からヒントを得る(さ)さんが面白いです。
そんじょのカケラではないのですね。 いくら綺麗な陶器でも カケラになると、料理を載せる以前に触ると危ない!としか見えないでしょうね。 ベストマッチしててひとつの作品として眺め入っていますよ。
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