秋田県の横手駅そばの池田屋食堂で野菜ラーメンを食べていたら
老年のカップルが隣のテーブルについた。
ばっちゃんはなかなかおしゃれだ。
白い大きな花のついた黒い帽子に黒とグレーのひらひらした服を着ている。
じっちゃんはよれよれのシャツにズボン。
早口だ。東北弁だ。何を言ってるのかさっぱりわからない。
しかし、かろうじて「野菜」「二束三文」「老後」
この三つの言葉が聞き取れた。
横手は駅前も人が少なく、駅前のパチンコ屋は大きいビルだが
町もビルも全体に色が褪せて洗いざらしたようなたたずまいである。
地方都市でこのような活気に欠ける町は多い。
横手は冬はカマクラで有名で観光客も来るのだろうけれど
夏は祭りもあるのだろうけれど、いまはクルマさえ少ない。
こういう町を見ていると
町から人が出て行く、なんとかせねば、雇用をつくりたい
道路も良くしたい、公共施設も...そこで援助金ほしさに
うかうかと原発という構図がなんとはなしに見えてくる気もするのだ。
大きな建物や施設をつくっても
維持できなければしかたないのであって
みんなが町の予算に見合ったことを考えればいいのだが
若い人のことを考えるとそうもいかないのかもしれない。
そんなことを思いながらつらつら観察していた。
ばっちゃんは自称70歳である。
キレイに化粧しているが、まあそんなもんだと見受けられる。
そのばっちゃんが「イカサス」といった。
すると店のばっちゃんが「はぁい、イカ刺し」と答えた。
イカ刺しは450円だ。
客のばっちゃんとじっちゃんは、すでにビールを飲んでおり
ネギトロがどうのと言っていたが
残念ながら売り切れで、かわりの「イカサス」だったらしい。
ううむ、老後(というか、すでに老後ではないのか?)を心配しながら
昼からビールとイカサスなのかと感心したり
それにしても、客のばっちゃんは「イカサス」で
店のばっちゃんは「イカ刺し」なのが不思議だな、
店のばっちゃんの出身はどこだろうなどと余計なことを考えていたら
「カテァ」という声がした。
客ばっちゃんがイカサスを食べて叫んだのだ。
イカサスが固かったらしいのだ。
その「カテァ」は「カチャ」にも聞こえるが「カチャ」ではなく
どう文字にすればいいのかわからないが
強いて書くなら「カテァ」としか書けないような音だった。
そのうちまた客ばっちゃんの声がした。
「おすぼりねえの」
店ばっちゃんがのどかに返事をした。
「はぁい、おしぼりあるよ」
「おすぼり、ちょうだいよ」
「はぁい」
客ばっちゃんとじっちゃんのところに冷やし中華が来た。
「こういうずんせいは最高だな」と、客ばっちゃんがほがらかに笑った。
私はアイスコーヒーを飲み終えて勘定を払った。
やれやれ最後に「人生は最高」という言葉で締めくくってくれてありがとう...
と、思った。
私が店を出るとき、おすぼりはまだ出されていなかった(さ)
*写真は野菜ラーメン。あまりうまくなかったです。