「黒部への道」を書いているうちにも
さまざまなことがあった。
秘湯会のゲスト会員向井潤一が黒部ファンだったと知ったのも
そのひとつだ。
なんと向井は1968年公開の映画「黒部の太陽」を見て
土木科への進路を決めたそうなのだ。
それを本人からきいたのは松茸を食べた夜だったが
土木をこころざしていた青春を振り返りつつ
『男はダムだぜ』などと怪しい言葉を口走っておったのだ。
しかし高所恐怖症の向井に土木は無理だ。
おそらく立山を超えられず水平歩道も日電歩道も歩けず
大町か宇奈月あたりで温泉につかっているのが関の山だと思う。
土木に進まなくて本当によかった。
さて、そうこうしていたら
秘湯会副会長が黒部を観光しに行って、
氷筍ビールなるものを買って来てくれた。
氷筍はいつも通り大雑把に説明すると下から生えるツララであり、
滴り落ちた水滴が瞬時に凍りついて氷筍に育っていく。
そんなものができるのはよほど寒い洞窟である(−3℃だそうだ)
黒部ではこの氷筍の元になる水から
ミネラルウォーターやビール、さらに日本酒もつくられている。
水が湧いているのは赤沢の標高1560mあたりで
その水は実に関電トンネルの工事をあれほど悩ました
「破砕帯」の水なのだった(日本では珍しい硬水だ)
7ヶ月間にわたってトンネルに溢れつづけた水は
消えたわけでなく、いまも存在しているのだが
それを有効利用しているというのが面白いと思う。
さっそく飲んでみた氷筍ビールは
表面上は確かにビールなのだが
ビールのフリをしたおいしい水といってもよかった(さ)