たとえば黒部峡谷の鉄橋を渡るトロッコ列車の写真を見るとき
ふと気づくことがある。
小さいくないか?
うん、小さい…
本当に小ぶりなののだ。
鉄道ファンが撮影した他の路線の写真と較べても
どうも列車そのものが小さい気がするのだ。
調べてみると、トロッコ列車は軌間(線路幅)およそ76センチ、
我々がいつも乗る通勤電車の3分の2くらいの狭さだった。
車両も小さくなって当然だろう。
細い線路に小さな車両が乗ってS字に蛇行しながら谷を走るのだ。
遊園地の電車のようだと言う人もいた。
後の黒部ダム(黒四ダム)建設のときは
このトロッコに重機が乗らず、バラバラに分解して乗せた。
それでも大き過ぎる部品はふたつにも三つにも切断して
やっと運んだそうだ。
(バラバラにしたブルドーザーなんぞを復元してしまうのが凄い。
私なんぞバラバラの自転車でも無理です)
さらにトロッコ列車は遅い。
宇奈月=欅平間の20.1kmを80分かけて走る。
マラソン選手より遅い。
しかし無理をして谷底に落ちるよりはいいし景色もゆっくり見られる。
トロッコ列車の運行はだいたい4月末から11月いっぱい。
全線開通するのが5月になってからで
12月ともなると雪崩の多い地域の橋などは撤収して
トンネルの中にしまいこみ、冬ごもりをしてしまう。
あらっ、鉄橋が消えた!と驚く人がいなくて残念だが
わざわざ見に行ってはいけません、死にますよ。
さて、店じまいの時期になるとトロッコ列車は忙しい。
ダムで越冬する隊員(ではなく職員)のために
食料その他を数十トン運ばねばならない。
野菜、乾物、調味料…
生鮮食料は必要に応じて徒歩で運ぶ。
そのために、というわけではないが冬期の業務通路として
線路に沿ってトンネルが掘られている。
トンネルは人がひとりかろうじて通れる程度の狭さで
トロッコが走る距離と同じだとするとおよそ20kmだが
これを歩くと6時間ほどかかるらしい。
手紙もこのトンネルを通って運ばれる。
ところで、トロッコ列車は別名「下部軌道」と呼ばれる。
軌道とは大ざっぱに線路と思ってもらってもかまわない。
「下部軌道」とは要するに黒部峡谷の標高の低い部分を受け持って
走っている路線という意味だろう。
下部軌道があるのだから上部軌道も当然ある。
こちらは完全に業務用の軌道で、ほぼ全線トンネルのために
冬期も運行している。
上部軌道の話は長くなるからいずれまた(さ)
*ニューヨーク平石日記
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